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【社労士監修】労災とは?人事労務担当者が知っておくべき基礎知識と対応方法

労働災害(労災)は労働者にも会社にも深刻な影響を及ぼします。
人事労務担当者として、絶対に間違ってはいけないことがいくつもあります。


ところが、間違った知識が蔓延っているようにも見受けられます。


人事労務担当者として確実にその業務を果たせるよう、本記事で正確な知識を身につけてお役立ていただければと思います。


目次[非表示]

  1. 1.労働災害(労災)とは何か
  2. 2.労災保険とは何か
    1. 2.1.労災保険の趣旨
    2. 2.2.業務災害
    3. 2.3.通勤災害
    4. 2.4.労災保険は強制加入・給付には会社の認定は不要
    5. 2.5.労災保険の保険料率の定め方
    6. 2.6.労災保険だけで会社の責任が免れるわけではない。
  3. 3.労災の実情
  4. 4.新型コロナウイルス・テレワークは労災の対象?
    1. 4.1.新型コロナウイルス感染症も労災になりうる
    2. 4.2.テレワークも労災になりうる。
  5. 5.労災の給付はこれだけ充実している(健康保険との比較)
    1. 5.1.労災保険の給付の概要
    2. 5.2.労災保険・健康保険の比較
  6. 6.労働者に労災が起こったときの手続き
    1. 6.1.労災についての会社事業主の責任・義務
    2. 6.2.労災請求手続きの全体についての注意
    3. 6.3.療養(補償)給付
    4. 6.4.休業(補償)給付
    5. 6.5.その他の給付について
    6. 6.6.労基署の決定に問題があるときの対応(審査請求、再審査請求)
  7. 7.労災に関するその他注意点
    1. 7.1.「健康保険で給付を受けておいてください。」は間違い
    2. 7.2.労災を隠すな、請求を妨げるな。
    3. 7.3.都市伝説に惑わされるな
    4. 7.4.労災と厚生年金・国民年金との調整について
    5. 7.5.フリーランス・個人事業主における労災の対応
  8. 8.産業医などの専門家を活用しよう


労働災害(労災)とは何か


労働災害は、労働者が仕事のうえでケガをしたり、病気になったり、不幸にして亡くなることです。


会社は、労働者の療養費を負担したり、労働者が働けず賃金を得られない場合に休業補償を行うこと、さらに障害を負った場合の補償や、不幸にして亡くなったときの遺族への補償なども義務付けられています(労働基準法第75条以下)。


ただし、会社に十分な支払能力がないこともあるでしょう。
大きな事故ではその会社だけで補償できないことも起こりえます。


このような場合に備えて「労働者災害補償保険(労災保険)」という仕組みが作られています。



労災保険とは何か

労災保険の趣旨

労災保険は、労働災害の補償を確実にするための公的な保険です。


全国の会社が保険料を出し合い、労災発生時に、国が会社の労災保険料を原資に、会社に代わって労働者に必要な補償などを行います。労災保険の給付が行われればその限りで会社は責任を免れます(労働基準法第84条)。


会社は労働者を1人でも雇っていれば、労災保険への加入が義務付けられており、正社員、パート、アルバイトなどすべての労働者が保護の対象になります。


労災保険法では給付の範囲が業務災害だけでなく、通勤災害にも拡大されています。
労働のために会社に通勤しているので、通勤途中の事故でも、労働者を保護すべきだからです。


さらに、被災労働者の社会復帰の促進、被災労働者やご遺族の援護、労働者の安全衛生の確保等で労働者の福祉の増進に寄与することも目的としています。(労災保険法第1条、第2条の2。厚生労働省「労災保険に関するQ&A1-1」


業務災害

業務災害は、業務上のケガや病気、死亡事故などをいいます。業務災害として認められるには、次の2つの要件を満たす必要があります。


①業務遂行性

業務の上で発生したケガ・病気・死亡事故であること。
仕事の準備や後片付けのとき、出張中の事故なども広く含まれます。


特に出張中は、往復の移動中や宿泊中なども、業務上その場所にいる必要があったのですから、業務遂行性が広く認められます。出張中のホテルで酔って階段から転倒し死亡した事案でも裁判所が業務遂行性を認めたものがあります。


②業務起因性

業務に起因してケガ・病気・死亡したことです。


ただし、業務遂行中でも、同僚とケンカしてケガをしたような場合は業務起因性がないので、労働災害とは認められません。


なお、疾病に関しては、厚生労働省で労災保険の補償対象の疾病を「職業病リスト」として定めています。新型コロナ感染症もこのリストに従って労災の対象とされています。


とはいえ、ケガの場合はともかく、病気(疾病)の場合は業務に起因するか日常生活など別の原因によるか判断が難しい場合もあります。


人事労務担当者が自分で判断するのではなく、労基署に相談することをおすすめします。


【参考】職業病リスト


通勤災害

通勤途中でのケガ、病気、死亡事故などです。


「通勤」とは、労働者が就業のために自宅と就業場所との間を往復することに留まりません。
単身赴任の人が帰省先の住居から赴任先の住居に移動することなども含まれます。


通勤災害と認められるには、合理的な経路及び方法により行うことが必要です。
通常の経路・手段だけでなく、合理的な代替経路・手段も含まれます。会社に届け出た経路・手段には限られません。


労災保険は強制加入・給付には会社の認定は不要

会社は、1人でも労働者を雇用していれば労災保険への加入義務があり、保険料は事業主が全額負担します。
この点が雇用保険や健康保険とは異なります。


仮に会社が労災保険に加入していなくても、労災事故が起これば労災保険で給付され、会社に保険料納付が求められることになります。


なお、会社が「労災ではない」と言い張っても、認定するのは労働基準監督署です。
会社が協力しなくても労働者だけでも労災認定の請求をすることもできます。


会社は万一の労災発生時には労働者の労災認定請求を積極的に支援すべきです。


労災保険の保険料率の定め方

労災保険の保険料率は災害のリスクに応じて、事業の種類ごとに定められています。


しかし、会社が労災防止に一生懸命取り組んでいるところと、取り組みが不十分で事故が多発しているところで同じ保険料率にするのは不公平です。


その事業場の労働災害の多寡に応じ、一定範囲内で労災保険率などを増額させる制度(メリット制)が設けられています。


【参考】厚生労働省
労災保険率(平成30年4月1日改定)
労災保険のメリット制について


労災保険だけで会社の責任が免れるわけではない。

労災保険は全国の労働災害について公平迅速な給付を図るため、定率定額の給付になっています。
給付内容は大変充実していますが、これで会社の責任がすべて免れるわけではありません。


労災保険でカバーできない部分は、会社に補償義務があります(労働基準法第84条)。


例えば、精神的な慰謝料などです。
それ以外でも、将来の逸失利益の算定などで、労災保険以上の補償を被災労働者やその遺族が求めて訴訟になることも少なくありません。

 

労災の実情

業務災害は製造業や建設業など特定の業種の問題ではありません。
下図の労働災害発生状況をご覧ください。


第3次産業でも多発しており、休業4日以上の死傷災害の6割を占めています。
それも高齢者の事故が増加しており、転倒災害の多発が問題になっています。


うつ等の精神疾患、過労死・過労自殺なども重大な問題になっています。
人事労務担当者なら、厚生労働省の次の資料は、ぜひ一度、目を通してください。


【参考】厚生労働省
平成31年1月から令和元年12月までの労働災害発生状況を公表
令和元年度「過労死等の労災補償状況」を公表します


業種別労働災害発生状況




事故の型別労働災害発生状況

【出典】厚生労働省:平成31年/令和元年 労働災害発生状況


新型コロナウイルス・テレワークは労災の対象?


新型コロナウイルス感染症も労災になりうる

新型コロナ感染症は、無症状でも人に感染させるという特徴があります。


厚労省では、感染の蓋然性を考えて幅広く認定する方針を明確に示されており、当面は労働基準監督署任せにせず厚労省本省で個別に判断する取り扱いとされています。


【参考】厚生労働省:「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」7.労災補償について


テレワークも労災になりうる。

新型コロナウイルス対策として、テレワークとりわけ在宅勤務が一気に普及しました。
在宅勤務も業務の場所であり、そこで起こった事故は労災になりえます。


例えば、在宅勤務中にトイレに行った帰りに椅子に座ろうとして転倒しケガをして労災と認められた事例があります。


一方で私的行為であれば労災の対象にはなりません。ベランダの洗濯物を取り込むときに転んでケガをしても労災にはなりません。


また、テレワークは、労働時間管理がおろそかになり、過重労働になりかねない、というリスクも指摘されています。
さらに仲間と離れた孤独な作業環境であり、うつなどの精神疾患を発症して労災になりうる、ということも考えておく必要があります。


テレワークにおける働き方に関しては以下の記事も参考になりますので、
是非参考にしてみてください。


【関連記事】コロナ後もテレワークを!社労士が語る「“柔軟な働き方”をいまこそ推進しよう」



労災の給付はこれだけ充実している(健康保険との比較)

労災保険の給付は、被災労働者等(死亡事故のご遺族も含む)について、事故に対する損失の補填(補償)のみでなく社会復帰促進も含めた手厚いものです。


なお、健康保険は労災(業務災害・通勤災害)以外のケガや病気(私傷病)に対する保険であり、労災保険とは給付の対象も役割も異なります。


労災保険の給付の概要

給付について、業務災害は「療養補償給付」、通勤災害は「療養給付」など「補償」の字の有無という違いがありますが、以下では、「補償」の字を取って記載しています。


①療養給付


ケガや病気が治るまで、自己負担なく診察や治療等が受けられます。
健康保険では3割の自己負担が必要なことと大きな違いです。


②休業給付

ケガや病気で働けず賃金を得られないときに休業4日目から給付基礎日額(概ねボーナス除きの賃金相当)の80%程度の給付が行われます(休業3日目までは会社に補償義務)。


なお、健康保険の「傷病手当金」は最長1年半までしか給付されません。労災の休業給付には期間制限がありません。


③傷病年金

ケガや病気で療養開始後1年6ヶ月たっても治癒せず、症状が重いときに年金などが給付されます。


④障害給付

ケガや病気が治ったが障害が残ったときに、障害の程度により年金または一時金などが給付されます。


給付水準は、③④とも症状次第では年金だけでもボーナス込みの年収ほどになります。加えて特別の一時金なども給付されます。


⑤遺族給付

ケガや病気のために労働者が亡くなったときに、ご遺族に年金または一時金が給付されます。


このような、傷病、障害、さらに遺族給付は健康保険にはないものです。
給付の水準が手厚いのは、前述の通り、労災保険が労災事故の損失の補填(補償)にとどまらず、被災労働者やそのご遺族の社会復帰を助けるための給付も含まれているからです。


さらに、業務災害で被災した労働者には、解雇の制限もあり、雇用の安定が図られています。


労災保険・健康保険の比較

表形式で労災保険・健康保険を比較しました。
それぞれの給付の詳細については、労災補償関係リーフレット等一覧でまとめられています。





労災保険の給付
健康保険の給付
(1)原因

①業務災害(業務上の事由により発生した災害)

②通勤災害
左記以外(私傷病)
(2)保険料

事業主(会社)全額負担

事業主(会社)と労働者が折半負担
(3)給付内容




①療養の給付

本人負担ゼロ(労災保険から全額給付)。

本人負担3割

(健康保険から7割給付)
②休業給付
ケガや病気のため働けず賃金を得られないときに、休業4日目から賞与除きの賃金(給付基礎日額:平均賃金と同じ)の80%を支給(業務災害の場合には休業3日目までは会社が平均賃金の60%を支給)。

傷病手当金

1年6月を限度に標準報酬の3分の2を支給 
③傷病年金
療養開始後1年6ヶ月たっても治らず重い症状が継続。年金+特別の一時金。
-
④障害給付

ケガや病気が一応治っても障害が残った場合、その状況により年金または一時金

給付水準は、③④とも大変重い症状のときにはボーナス込みの年収に近くなる。年金のほか特別の一時金の給付もありうる。
-
⑤遺族給付
ケガや病気で労働者が亡くなったときに、その状況により遺族に年金または一時金を支給。給付水準は、状況次第で③④に近いものになることもある。
葬祭料など
(4)解雇制限

業務上災害で負傷・疾病にかかり療養のために休業する期間とその後30日は解雇できない。

療養開始後3年を経過し負傷や病気が治らない場合は平均賃金の1,200日分支給し解雇可能(労働基準法19条、81条)

(通勤災害は解雇制限適用なし)

但し、これは労働契約の解約であり、労災給付は労働者の退職によって打ち切られることはない(労働基準法83条、労働者災害補償保険法12条の5)。

業務遂行不能等の問題があれば、解雇可能。

就業規則の休職期間満了なども解雇の理由となる。




労働者に労災が起こったときの手続き


労働者に実際に労災が起きたときには、会社の人事労務担当者は何をすべきでしょうか。


労災についての会社事業主の責任・義務

会社(事業主)には、労災の防止義務・補償義務・報告義務があります。


まず、労災を防止するため、労働安全衛生法に基づく安全衛生管理責任を果たさなければなりません。
法違違反がある場合、労災事故発生の有無にかかわらず、労働安全衛生法等により刑事責任が問われることがあります。


会社は被災労働者(またそのご遺族)が労災の認定請求をするのに協力をする義務があります。
実際には会社で被災労働者等に代わって手続をすることがむしろ普通でしょう。


労災が発生した場合、労働基準監督署にその労災を報告(労働者死傷病報告)しなかったり、虚偽の報告を行ったりした場合にも、刑事責任が問われることがあるほか、刑法上の業務上過失致死傷罪等に問われることがあります。


労災請求手続きの全体についての注意

請求書などの書式は労働基準監督署に備え付けられていますが、厚生労働省サイトからダウンロードすることもできます。
但し、ダウンロードするときには両面印刷にする、縮小拡大は不可、など様々な注意事項があります。


労災発生時には、労働基準監督署に相談して必要な書式をもらったうえ、記入方法や手続きについて教えていただくのが無難でしょう。


【参考】
①労働基準監督署の所在地:全国労働基準監督署の所在案内
②請求書等のダウンロードサイト:労災保険給付関係請求書等ダウンロード


療養(補償)給付

療養した医療機関が労災保険指定医療機関の場合には、「療養補償給付たる療養の給付請求書」をその医療機関に提出します。


請求書は医療機関を経由して労働基準監督署長に提出されます。
このとき、療養費を支払う必要はありません。


療養した医療機関が労災保険指定医療機関でない場合には、一旦療養費を立て替えて支払います。
その後「療養補償給付たる療養の費用請求書」を、直接、労働基準監督署長に提出すると、その費用が支払われます。


労災保険指定医療機関で治療を受けておくほうが、後の手続きが簡単です。
人事労務担当者としては最寄の指定医療機関を以下で検索して把握しておくことが望まれます。


【参考】厚生労働省
労災保険指定医療機関検索 ※療養給付の詳細な手続きはこちらの資料を参照ください。

療養(補償)給付の請求手続


休業(補償)給付

労災により休業した場合、業務災害の場合には前述の通り休業3日目までは、会社(事業主)が平均賃金の60%を事業主が直接労働者に支払う必要があります。


休業が4日以上になる場合は、会社は労働基準監督署に「労働者死傷病報告」を提出します。
4日目から休業(補償)給付が支給されます。


なお、給付の額が給付基礎日額(平均賃金)の80%になっているのは、労働基準法に定める60%分の休業(補償)給付に加えて、社会復帰促進等事業の一つとして給付基礎日額の20%の休業特別支給金が支給されるからです。


労災認定を受けるためには「休業補償給付支給請求書」を労働基準監督署長に提出します。


以下は、業務災害の場合のOCR書式です。


労働者が記載し、診療担当者が傷病の内容、療養の期間、傷病の経過(休業の期間等)を証明し、会社(事業場の事業主)が災害の発生状況などを証明する、という立て付けですが、実際には、会社で代わりに記載することが普通でしょう。


このほか別紙として平均賃金の算定内訳などを添えます。

【第1面】





【第2面】災害の原因・発生状況などの記載




【参考】
休業(補償)給付 傷病(補償)年金の請求手続
休業給付の詳細な手続きについては次の資料を参照してください。
 休業が1年6ヶ月以上になって症状が治らず、重い症状が続く場合には傷病(補償)年金が支払われます。その手続きも併せて解説されています。


その他の給付について

他にも前述の通り障害補償給付、遺族補償給付、葬祭料、介護補償給付などの保険給付があります。
これらの保険給付についてもそれぞれ、労働基準監督署長に請求書などを提出することとなります。


手続きの詳細については、以下の資料を参照してください。


【参考】
障害(補償)給付の請求手続
遺族(補償)給付 葬祭料(葬祭給付)の請求手続
介護(補償)給付の請求手続
※以上は「労災補償関係リーフレット等一覧」より代表的なものを掲載しました。


労基署の決定に問題があるときの対応(審査請求、再審査請求)

労災保険給付に関する決定に不服がある場合には、当該労働基準監督署長を管轄する都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をすることができます。


その決定に不服があれば、さらに労働保険審査会に再審査請求をすることができます。
なおも不服があれば地方裁判所に原処分の取消請求訴訟を起こすことができます。


【参考】労災保険審査請求制度



労災に関するその他注意点


「健康保険で給付を受けておいてください。」は間違い

労災が起きた場合に人事総務の担当者や現場の管理者が被災労働者に対して「健康保険で給付を受けておいてください。」などということがあるようです。


これは大きな間違いです。


①目的が違う。保険料負担も違う。

前述の通り、健康保険は労働災害以外のケガや病気(私傷病)に対する保険です。


労災は、健保の給付の対象ではありません。企業に勤めている労働者については、企業と労働者が保険料を原則として折半負担します。


私傷病で治療を受ける場合は、労働者も原則として3割の自己負担が必要です。私傷病について、労働者と会社が負担を分かち合う仕組みなのです。


一方で、労災については、前述の通り本来は会社に補償義務があります。保険料も会社負担であり、給付を受ける際には、労働者には負担は一切ありません。


②健康保険で給付を受けるのは「労災隠し」

労災が起これば会社は労働基準監督署に報告をし、防止対策を取る必要があります。
健康保険で給付を受けてしまうのは労災を隠す行為です。


なお、労災の認定に時間がかかることから、一旦健康保険で給付を受けておき、労災認定を受けてから健康保険に給付金を返すことはよく行われています。


手続きについては、次のパンフレットをご覧ください。


【参考】お仕事でのケガ等には、労災保険!


労災を隠すな、請求を妨げるな。

労災については、認定するのは労働基準監督署長です。会社が協力しなくても労働者だけで労災請求は可能です。


会社が労災を隠すような行動をすれば、監督当局からは労災隠しと攻められ、労働者とも監督当局とも紛争になるだけです。


労災が起こったら、労働者を守ること、再発防止に全力を尽くすことです。
それが働きやすく、生産性の向上を労使で目指す職場風土を育むことになるでしょう。


都市伝説に惑わされるな

例えば、ぎっくり腰や腱鞘炎は労災認定がむつかしいなど、様々な都市伝説が見受けられます。
最近では、新型コロナウイルス感染症の労災認定は難しいと思い込んでいる人もいるようです。


ぎっくり腰や腱鞘炎については、業務起因か日常生活起因かの見分けが難しいというだけのことであり、労災認定されたケースもあります。


おかしいと思えば、ともかく早く労基署に相談することです。
また、できるだけ早く労災指定医療機関などで診察を受けておくべきです。


よくあるケースは、少し腰が痛いが大したことはないとタカをくくっているうちに悪化してしまうことです。
時間が経過すると、業務起因なのか日常生活起因なのかもわかりにくくなります。


「早期に診察、早期に労基署に相談」これを徹底してください。

  

労災と厚生年金・国民年金との調整について

労災保険で障害年金や遺族年金などを受給していて、同時に厚生年金や国民年金の障害年金や遺族年金を受給している場合は、両者の間で併給調整が行われます。


例えば、障害厚生年金と障害補償年金(労災年金)を受け取る場合、労災年金の額が一部減額されます。
しかし、障害厚生年金はそのまま全額支給されます。


但し、調整された労災年金の額と厚生年金の額の合計が、調整前の労災年金の額より低くならないように考慮されています。


【参考】障害(補償)年金や遺族(補償)年金などの労災年金と厚生年金の両方を受け取ることはできるのでしょうか。


フリーランス・個人事業主における労災の対応

労災保険は、労働者として雇用され賃金を受けている方を対象としています。
そのため、事業主・自営業主・家族従業者など労働者以外の方は労災保険の対象外になっています。


そこで、「特別加入制度」として、労働者以外の方のうち、業務の実態や、災害の発生状況からみて、労働者に準じて保護することがふさわしい人に、一定の要件の下に労災保険に特別に加入することを認めています。


フリーランス、個人事業主なども特別加入できる可能性があります。


事業の種類などに制限がありますし、保険料は自分で払う必要があります。
しかし、該当する方はぜひ加入を検討されるべきです。


【参考】厚生労働省
特別加入制度とは何ですか。
特別加入制度のしおり(一人親方その他の自営業者用)



産業医などの専門家を活用しよう

以上の通り、会社の人事労務担当者として労働災害について最低限知っておくべき事項をまとめました。


労災の対応に慣れている業界の方ならばともかく、通常の人事労務担当者にとっては理解は困難と思われます。
ぜひ専門家を活用してください。


まずは、労働安全衛生に気をつけて労働災害を防ぐ事が第一です。
産業医をはじめとする労働安全衛生スタッフを十分に活用してください。


万が一の労災のときには、ともかく労働基準監督署にしっかり相談し労働関係に詳しい弁護士や社労士を活用してください。


会社として労災のときこそ、労働者に寄り添って補償が受けられるよう努力することです。
原因をしっかり究明して、以後の労災防止に全力を尽くしてください。


そのような人事労務担当者の真摯な努力が、労働者の働く意欲を奮い立たせ、会社全体で労災防止に全力を尽くす気風を育んでいくでしょう。





玉上 信明(たまがみ・のぶあき)
玉上 信明(たまがみ・のぶあき)

社会保険労務士玉上事務所(https://srdoraneko.amebaownd.com/) 社会保険労務士/健康経営エキスパートアドバイザー/ 日本公認不正検査士協会アソシエイト会員(https://www.acfe.jp/) 日本紙芝居型講師協会会員(https://todotakehisa.themedia.jp/) 三井住友信託銀行株式会社入社後、年金信託・法務・コンプライアンス部門などを担当。 定年退職後、2017年1月に社会保険労務士玉上事務所を開業し人事労務管理コンサルティングなどをおこなう。セミナー講演やメディアへの記事掲載、ブログも執筆中。 ブログ:虎猫銅鑼猫「toranekodoranekoのブログ」 最近の講演:2019年6月公益社団法人全国産業資源循環連合会第9回定時総会

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【2020年版】2020年4月に時間外労働も適用範囲に!働き方改革関連法で中小企業は何が変わる?

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2019年4月に施行された働き方改革関連法が、中小企業にも順次適用されていることをご存じでしょうか。2020年4月には、時間外労働の上限規制が適用されます。 今回の改正により、中小企業の会社と現場にどのような影響を与えるのかーー中小企業の人事労務担当者に向け、中小企業に適用される内容やそれに伴い企業として取り組むべきことなどをご紹介します。

従業員のメンタルヘルスを改善しよう!産業医の役割や面談のメリットを解説

メンタルヘルス

従業員のメンタルヘルス管理は、企業が今後も生き残るうえで無視することのできない、重要な課題といえます。企業の健康経営を目指すうえで、ポイントとなるのが「産業医との面談」の導入です。ここでは、産業医の主な役割や定期的な面談を実施するメリット、さらに従業員に面談を受けてもらうための対策方法について解説します。

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