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リモートワーク下における、職場復帰支援のポイントとは? -産業医とならできること-

コロナ禍を契機に、リモートワークへ移行する企業が増えました。ストレスフルな通勤がない、人間関係の煩わしさがないなどリモートワークならではの特徴をメリットと考える方もいるかもしれません。


しかし、従業員の様子が見えづらくなったことで対応に苦慮している人事や上司の方は多いと思われます。リモートワークへ移行した企業は、メンタルヘルス不調者の休職対応を含めて、どのように職場復帰支援を行うべきなのでしょうか。


榊原産業医パートナーズ株式会社代表であり、産業医・精神科医の榊原亙先生がそのポイントを解説します。



1. 復職の鍵となるのは「安定」と「準備」


仕事をする上で強い不安やストレスを感じている労働者は全体の6割にも達し、20年以上高水準のまま推移しています。
また、メンタルヘルス不調により連続1カ月以上の休業、あるいは退職に至った労働者がいる事業場も1割近くを占めています。


このように、心の健康問題により休業する労働者への対応は、多くの企業で課題となっているのが現状です。


職場復帰支援は、①休業中のケア、②主治医による復職可能の判断、③事業者による復職可否の判断、④復職後のフォローアップという流れで段階的に進めていきます。通勤訓練や試し出勤制度を採用している企業が多く見られますが、リモートワーク中では、休職者の状態を確認できる手段が全体として限られてしまいます。


その結果、回復の程度や復職に伴うリスクの評価が不十分となり、今まで問題が表面化しなかった企業でも、職場復帰支援をスムーズに進められないケースが頻出しているのです。


休職者が十分な療養を経て食事や睡眠を安定させ、通常業務を想定した生活まで改善すると、回復の程度を評価することが可能となります。


つまりは、リモートワークにおいても、疾病や日常生活の安定と業務への準備を、可能な限り客観的に確認できる仕組みづくりが休職・復職管理に求められるのです。



2.「3つのW」を明確にしよう


いつ(When)、誰が(Who)、何を(What)するのか。
前述の仕組みづくりでは、休職者と関わる各担当者(人事、上司、主治医、産業医)がどのような役割を果たすのかという「3つのW」を明確にすることこそ、最も重要です。


ここでは、休職者が休みに入ってから職場復帰の意思を示すまでの段階を第1ステップ、主治医が復職可能と判断するまでの段階を第2ステップ、事業者が復職可否の判断をする段階を第3ステップとして解説していきます。


◆第1ステップ

休職者は、しっかりと療養することが必須となります。
本人が療養に集中できるよう、休業中の経済的な保障(傷病手当金など)や休業可能期間、休職・復職の関連規定を人事から説明します。


この時期、人事や上司からの連絡は窓口を定め、療養へ影響のない程度にするべきです。


主治医が専門的治療を行い、疾病と日常生活の安定化を図ります。
産業医は人事や上司と情報を共有し、本人の状態に合わせて、適切な距離感でフォローを継続します。


◆第2ステップ

休職者が療養を経て職場復帰への意思を示した場合、復職判断を主治医へ確認する段階に入ります。
その際、主治医が業務について十分知らないまま診断してしまうケースが見られます。


主治医は、日常生活における病状の回復程度によって判断していることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力を評価しているわけではありません。


このため、産業医は主治医と緊密に連携し、休職者の業務内容や職場環境などの情報を提供しておく必要があります。


一方で、産業医は主治医へ治療経過や就業上の配慮に関する意見などの情報提供を依頼し(※)、これを踏まえて定期的なフォローを行います。なぜ休職に至ったかを、休職者本人なりにフォロー面談を通して振り返ってもらうことが肝要です。


併せて、体調不良にならないためにはどうすればよいか、体調不良時にどう行動すればよいかなどを考えるよう産業医から休職者に促すことで、復職に向けた準備を整えてもらいます。その上で、業務遂行能力の程度や企業がとるべき対応についての意見をまとめます。


人事や上司は休職者の生活記録表などを通して、日中の活動量・睡眠による疲労回復度を確認します。就業時間を想定した生活リズムへ戻っているかどうか、この点は重要な要素となります。併せて、業務を想定した作業課題を休職者から提出してもらうことで、復職後へ向けた準備度を産業医と連携しながら確認します。


※主治医への情報提供依頼は、本人の同意を得て行います。


◆第3ステップ

各担当者による休職者の疾病や日常生活の安定度、業務への準備度に関する評価・意見をもとに、事業者が復職可否の判断を行います。復職決定後は、職場復帰支援プランを作成することで復職後のフォローアップへスムーズに繋げられます。


特に、リモートワークでの復職とせざるを得ない場合、各担当者から休職者へ相応のフォローアップが必要です。


オン・オフの区切りをつけにくい、生活リズムが乱れやすい、コミュニケーション不足から不安や孤独感を抱きやすいなどリモートワークならではの問題があるためです。産業医は、セルフケア・セルフマネジメントの具体的な方法を助言しつつ、適切なフォローを行います。



3. 職場復帰支援はチームスポーツ


各ポジションの選手(=担当者)がそれぞれの役割を果たし、チームの勝利(=休職者の復職)を目指して連携する。職場復帰支援がチームスポーツに例えられる所以です。


休職から復職へ至る各ステップにおいて、どの担当者が何をするのか。休職者や各担当者のやることリスト・フローチャートまで落とし込み、「見える化」することで、リモートワーク下でも職場復帰支援を格段に進めやすくなります。


産業医等とともに各種ルール設定と関連規定の整備を行い、必要時に従業員が安心して休業できる職場環境を整えましょう。


【参考文献】
1) 厚生労働省:心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き
2) こころの耳:メンタルヘルス対策(心の健康確保対策)に関する施策の概要
3) 厚生労働省:職場における心の健康づくり




榊原 亙(さかきばら わたる)
榊原 亙(さかきばら わたる)

産業医、精神科医、労働衛生コンサルタント。秋田大学医学部医学科卒業後、精神科救急医療の研鑽を積む。現在、榊原産業医パートナーズ株式会社代表、VISION PARTNERメンタルクリニック四谷パートナー医師。産業医または顧問として、日系大手企業・外資系企業・ベンチャー企業など複数の企業で産業保健活動に携わる。産業保健サービスや関連ツールの開発を行うなど、多岐にわたり活動している。また、働く方の健康問題についてオンラインによるアプローチも積極的に行っている。

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