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時季変更権とは?これだけは知っておきたい行使の条件と注意点

年次有給休暇の取得にまつわる企業の権利と義務に「時季変更権」と「時季指定義務」があります。
​​​​​​​時季変更権とは、企業が労働者の有給取時季を変更する権利のことであり、時季指定義務とは、有給取得日を企業が指定する義務のことです。


どちらも、労働者の持つ有給休暇取得の権利が前提にあることに注意が必要です。


この記事では、時季変更権と時季指定義務の概要と、どのような状況において行使できるのか、また行使にあたっての注意点まで解説していきます。


目次[非表示]

  1. 1.有給休暇の時季変更権とは
  2. 2.企業には、時季変更権がある
    1. 2.1.「事業の正常な運営を妨げる場合」とは
    2. 2.2.時季変更権が行使できない4つの条件
    3. 2.3.時季変更権を悪用した場合、罰則を受ける可能性も
  3. 3.企業には時季指定義務がある
    1. 3.1.企業の時季指定義務
  4. 4.トラブルを招かないためにも、就業規則に時季変更権について記載を
  5. 5.時季変更権・時季指定義務を正しく理解して、働きやすい環境整備を



有給休暇の時季変更権とは

年次有給休暇における時季変更権とは、労働者から申請のあった有給休暇取得日を使用者が変更する権利のことです。


時季変更権は、労働基準法第39条第5項において「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる」と定められています。


ただし、原則として労働者の有給休暇に取得理由は不要であり「いつどんな目的で使うか」は労働者の自由です。


そして、法的には時季変更権よりも労働者の持つ有給休暇取得の権利の方が強いため、使用者が時季変更権を行使するには、まず変更について従業員からの合意を得ることが重要となります。



企業には、時季変更権がある

ガッツポーズする社員

企業には有給休暇の時季変更権が認められています。


ただし上述の通り、使用者の持つ時季変更権よりも、労働者の持つ有給休暇取得の権利の方が強いため、時季変更権それ自体に強制力があるとは言えません。


例えば、従業員から申請された有給休暇の取得日が繁忙期であったとしても、使用者はできる限り希望通りに有給休暇を取れるように配慮することが求められます。


時季変更権を行使するにあたっては、「労働者の希望通りの有給休暇を取得させるためにどこまで配慮したか」ということが重要となってきます。


使用者は、「代わりの従業員を確保する」、「勤務のシフトを変更する」など、状況に応じて有給休暇を取得させる努力をすることが必要です。


「事業の正常な運営を妨げる場合」とは

時季変更権は「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる」と定められています。


「事業の正常な運営を妨げる場合」とは、具体的にどのような状況が挙げられるのでしょうか。


様々な判例を見ると「事業の正常な運営を妨げる場合」には、以下の状況が当てはまることがわかります。


  • 代替人員の確保が難しい労働者が、休暇の開始日直前に長期間の有給休暇を申請した場合
  • 複数の労働者が同じ時季での有給休暇の取得申請をした場合


このような場合は、事業を正常に運営できないと判断される可能性があります。


例えば、業務の繁忙期に「明日から20日間の有給休暇を取らせてください」という労働者からの申し出は、「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当すると判断されるでしょう。


しかし、上記に当てはまる状況であれば一概に権利を行使できるわけではなく、以下の要素も加味した上で決定されます。


  • 事業所の規模や業務内容
  • 有給休暇を申請した従業員の担当している職務内容や職務の性質
  • 職務の繁閑
  • 代替要員確保の配置の難易、同時季に有給休暇を指定した員数
  • これまでの労働慣行など


これらを考慮した上で、それでも人員調整などに限界がある場合には時季変更が可能とも言えます。


しかし、ただ単に「人手不足で休まれると困る」といった理由のみでは、適用が認められないでしょう。
「人手不足」が時季変更権の行使理由として認められてしまうと、人手不足の状態が恒常化し、労働者の希望通りの日程で有給休暇を取れないことが続いてしまう恐れがあるためです。


労働者の希望通りに取得できるよう可能な限り努力をし、時季変更権の行使は慎重にすべきです。


時季変更権が行使できない4つの条件

以下の4つの条件のいずれかに当てはまる状況の場合は、時季変更権を行使できません。


  • 有給休暇が時効で消滅する場合
  • 退職・解雇予定日までの期間を上回る有給休暇を有しており、時季変更することが不可能で、事業廃止により時季変更権を行使すると、消化期間がなくなってしまう場合
  • 計画的年休付与により、取得時季が指定されている場合
  • 時季変更権行使により、年休時季が産後休業・育児休業の期間と重なる場合


ちなみに、有給休暇の時効は発生から2年間になります。


上記の場合においては「事業の正常な運営を妨げる場合」と判断されたとしても、時季変更権は行使できません。
強硬的な時季変更権の行使には、さまざまなリスクが伴うため、細心の注意が求められます。


また、コロナウイルスを理由にした時季変更権の行使も基本的にはできません。


ただし、感染防止と事業継続のために必要最小限の重要業務従事者にのみ出社を命じており、従業員が休むと会社の正常な運営が妨げられることになるような場合には、時季変更権の行使ができる可能性があります。


しかし、あくまで従業員の希望通りに有給休暇を与えなければならないことが原則であるため、本当に有給取得が事業の正常な運営を妨げるのか、時季変更権を使用しなくとも事業の正常な運営を行うことはできないかの検討が必要です。


時季変更権を悪用した場合、罰則を受ける可能性も

時季変更権を悪用・濫用した場合、それがパワハラとみなされ罰則を受ける可能性もあります。


例えば、使用者が時季変更権を濫用し「この日に休まれたら困るから違う日にして」「その日もダメ」「遊びに行くために有給を取るのはダメ」「売り上げが上がったら休んでいいよ」というように、時季変更権を何度も行使し、事実上有給休暇が取れない状況にしたり、時季変更権として認められない理由で有給を拒否したりすると、時季変更権を濫用したとみなされ、従業員がそれをパワハラと受け取ることも考えられます。


有給休暇を取得する理由を尋ねること自体は問題になりませんが、従業員の意志を尊重する必要があるため、「遊びに行くための有給はダメ」というような、理由によって取得そのものを認めないことは許されません。


このように時季変更権を濫用した場合、使用者は従業員から訴訟されるリスクがあります。


また、法律によっても「労働者の請求する時季に所定の有給休暇を与えない使用者は、労働基準法第39条『年次有給休暇』、労働基準法第119条『罰則』により6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる」と定められています。


時季変更権は、使用者が好き勝手に有給取得時季を変更できるものではなく、あくまで労働者の有給取得時季の希望を叶えようと努力した上で、やむを得ず行使されるものであるということを覚えておきましょう。


また、有給休暇取得の拒否はできず、業務上の事情があり時季変更権を行使する場合も、別の日に取得できるように配慮することが重要です。



企業には時季指定義務がある

談笑する男性社員

時季指定義務とは、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年次有給休暇の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させるという義務です。


年次有給休暇は、原則として、労働者が請求する時季に与えることとされています。


しかし近年、職場への配慮や、迷惑をかけるのではないかというためらいなどの理由から、有給取得率が低調な状況が続いており、全国的に年次有給休暇の取得促進が大きな課題となっていました。


このような状況を改善するため、労働基準法が改正され、2019年4月から「全ての企業において年次有給休暇の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させること」という時季指定義務が設けられました。


企業の時季指定義務

先述の通り、労働基準法改正により、使用者による労働者への有給取得の時季指定の義務が新設されました。


これは具体的には、使用者が労働者に取得時季の意見を聴取し、労働者の意見を尊重した上で使用者が取得時季を指定する手順で行われます。


時季指定義務では、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者ごとに、年次有給休暇を付与した日から1年以内に5日について、使用者が取得時季を指定して与える必要があるとされます。


ちなみに、年10日以上の年次有給休暇が付与される従業員は「会社に採用されてから6か月間、継続勤務してきて、出勤率が8割以上である」人が対象となります。


ただし、年次有給休暇を5日以上取得済みの労働者に対しては、使用者による時季指定は不要となります。


トラブルを招かないためにも、就業規則に時季変更権について記載を

労働者とのトラブル防止のために、就業規則に時季変更権について明記しておくことが推奨されます。


例えば「従業員より申請された時季に年次有給休暇を取得させることで、事業の正常な運営を妨げる場合には、取得日を変更することがある」というように、年次有給休暇の時季変更についてあらかじめ明記し、従業員に対して周知しておくと良いでしょう。


ただし、就業規則に記載したからといって時季変更権の行使が可能になるわけではないことには注意が必要です。
あくまで「事業の正常な運営を妨げる場合」にのみ適用可能です。


また、時季指定義務についても同様に「年次有給休暇が10日以上与えられた労働者に対しては、付与日から1年以内に当該労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日について、会社が労働者の意見を聴取し、その意見を尊重した上であらかじめ時季を指定して取得させる」というように、明記しておくことが大切です。



時季変更権・時季指定義務を正しく理解して、働きやすい環境整備を

有給休暇をとって雪山に行く男性

ここまで、時季変更権と時季指定義務について紹介してきました。


時季変更権は、労働者の有給取得によって企業が正常な運営ができなくなることを防ぐために設定された権利です。一方、時季指定義務は、労働者にきちんと有給を取得させることを目的として設定された義務です。


つまり、時季変更権は企業の安定した活動を守るため、時季指定義務は労働者の有給権を守るためのものです。


有給休暇は労働者の権利であり、企業は有給休暇を正しく定めてトラブルを未然に防ぐこと、労働者が希望通りに有給休暇を取りやすい環境整備をすることが大切になってきます。


あらかじめ時季変更権・時季指定義務について周知しておくことも重要ですが、時季変更が必要な状況にならないよう、日ごろから業務の内容や人員の調整ができるようにしておきましょう。



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