【産業医寄稿】職場と精神科医の連携は休職開始時点から始まっている~実際の症例から~

メンタルヘルス不調で休職した労働者の職場復帰がスムーズに進まないといった現状が指摘されている。また職場復帰後の再休職や退職率が高いことが知られており、臨床現場と職場の連携が重要視されている。連携には様々な職種が関与し、産業医、主治医、人事労務担当者、関係職場などが絡む。今回は、それらの職種のスタッフが、どのタイミングからの連携が必要かを実際の失敗経験談から述べる。

実際の症例

 42歳の男性。人事異動で本社から支社へ転勤となった。新たな職場の同僚となじめずに孤立していた。異動後3ヶ月ほど経過したころに重大なミスをしてしまい、上司から叱責されたこと、職場の部下からも皮肉を言われたことで大きなショックを受けた。それ以降不眠、抑うつ気分、意欲低下が出現したために近くの精神科を受診したところ、うつ病の診断をうけ、治療が開始となった。

しかし、症状が改善せずに、職場付近に接近すると震えなどが出現し、出勤困難な状態と判断され、休職となった。主治医からは、職場に近づくことや、職場の人間と接することで症状が悪化する可能性があったために、休職に関係する書類のやり取りは郵送で行うよう指示があった。職場の人事や総務関連部署、産業保健スタッフも休職が必要な旨が記載された書類などを介して、休職していること、職場関連の人と近づかない方が良いことを知っていたために、ある程度の病状が改善するまでは産業医面談は控えることとした。

その後、病状の改善は一進一退であったが、職場のことを考えたり、職場関係の人と連絡を取ったりすると動悸や震えなどの恐怖症状が出現するなど症状の改善は不十分だった。そのため、2ヶ月に一度休職継続の診断書が届くだけの状態となっていた。

休職満了退職期日が近づき、職場からその旨の通知をしたところ、主治医から『復職可能』の診断書が提出され、初めて産業医や保健師による面談の機会が調整された。本人は10分遅刻し、面談に現れたが、発汗著明で緊張した面持ちで来室され、突然、「今日、会社に来てみてわかりました。会社に拒絶反応が出ているのです。この状況が続くのは耐えれません。先ほど妻にも電話し退職することに決めました」と話をされた。配置転換や本社に戻ることも検討できる旨を伝えたが本人の意志は固く、そのまま退職となった。

まとめ

 本症例では、職場に対する一種の恐怖症状を伴ううつ病だった。結果的に職場と主治医の連携は、休職の診断書、復職の診断書を介したものだけだった。また、休職満了退職期日に関する説明が文書であったために従業員に十分理解されていなかった。休職満了退職期日を聞いてから、焦って職場復帰を決め、復職面談に至ったが、結果として症状が強く出たために、様々な可能性を検討することもなく、絶望して退職という意思決定をしてしまった。

休職を開始する際には、人事労務担当者として休職開始時に共有しておくべきポイントを明確にし、産業保健スタッフとスムーズな連携をとっておくことが、その後の早期復職、出社継続につながるものと思われる。また、初診時に産業保健スタッフから顔なじみの精神科医に紹介することでスムーズな連携につながることも少なくない。そのためにも、日常から、産業保健現場は職場に開かれ、相談しやすく、存在感があり従業員が行きやすい場所であることが重要だと言えるでしょう。

堀輝
堀輝

産業医科大学を卒業後、精神科医として臨床、研究、教育に業務。その間、複数の専属産業医、嘱託産業医を経験。現在は産業精神医学関連の臨床、研究に従事する傍ら、ストレスチェックや嘱託産業医業務を行っている。

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