企業における食環境改善の実例とメリット【連載vol.3】

健康のためにと我慢をするのもストレスの元

「ほんの少し…と思って開封したお菓子を結局一袋食べきってしまった」

「お腹が空いた時のためにストックしてあるお菓子を結局毎日食べてしまう」

…皆さんにも、そんな経験、ありませんか?お菓子の食べ過ぎが健康によくないのは、誰もが知るところです。また、食事と違い、お菓子に期待できる栄養は限られます。

 仕事中に疲れを感じると「脳に糖分補給」「ちょっと休憩」というように、ついお菓子に手がのびてしまいます。疲れた脳は自分を律してはくれません。しかし、疲れを感じていて、手をのばせばすぐそこにお菓子があるにもかかわらず我慢をする…これだってストレスの元になります。


環境を変えるのもタイミング

従業員のメタボ率の高さを改善する施策を考えたある企業では「すぐ手を出せるところにお菓子があると、必要以上に手にとる頻度があがっている。加えて、隣の人が食べているからと芋づる式に買う人が増えている」とし、オフィス内でのお菓子販売を止めることにしました。
今まであったものがなくなると、当然社員から不満が上がります。そこでこの企業が考えたのは、“タイミング”。オフィス移転と同時に、オフィス内でのお菓子販売を止めたのです。その代わり、コーヒーだけでもリラックスできるようなカフェスペースを作ったところ、移転から1年近く経っても不満の声はあがっていないそうです。



このように、企業が食の環境を整えることは「健康のために誘惑と戦って我慢をしなければならない」という社員のストレスを軽減することにもなります。突然、環境だけ変えても、社員は「ついていけない」と感じ、会社に対する不満は高まります。前出の企業でも、「無理な改革は社員にストレスを与えるだけ。社員から不満があがったら、元に戻そう」とも考えていたそうです。

オフィス移転はそうそうできませんが、新年や年度始めなど、個々人も自然と気持ちを新たにするようなタイミングにあわせて施策をうつのは、良い機会のように思います。


利用するサービスの見極めポイントは?

ただ、お菓子=悪、ではありません。
適量の甘い物は、仕事中のエネルギー補給になることもあるでしょう。大事なのは、社員が健康的と思える範囲内で利用できているかどうかです。たとえば、オフィスにお菓子があることで残業中もお菓子しか口にしない社員が多い(また、その部署はメタボ率も高い)、お菓子を食事代わりにしている若手社員が多い、などという問題があれば、会社側として設置の有無や仕様(時間を限るなど)を考えた方がよいかもしれません。

このように、社員にとって良くない選択肢を消していく環境整備の一方で、良い選択肢を増やしていくことも大切です。ある企業では、お菓子に限らずもう少し幅広い商品を置くことで栄養補給ができる選択肢を増やしました。

企業の中に、残業が多い部署があるとします。最寄りのコンビニが遠いために残業食をなかなか買いにいけない場合、ただ健康的ではないからとお菓子販売を止めたら、不満が出て来ても仕方がないでしょう。代替案としてお惣菜系の導入を検討しても、金額的にも負担が高かったり、運用が難しいと感じたりする企業は少なくないですよね。

オフィス内に何か設置することで解決を図るのではなく、少数でも注文できる近隣のお弁当屋などを会社が把握し、管理職にもその存在を周知させることも一案です。社員が喜ぶサービスはいろいろあると思います。しかし、導入したらそれを撤廃するのはなかなか難しいもの。どんなサービスを選ぶかは、そのサービスを使うことによって社員の健康な未来が思い描けるか、ということも判断軸にしていただけると良いかと思います。


組織規模に関係なくできることがある

大規模な食環境改善では、お客様も利用できるようなヘルシーな社食、というのもありますよね。そうした会社では「噂のあの社食に行ってみたい!」などとお客様の来社が増えた、「企業イメージがあがった」「そこから仕事につながった」「採用のウリになる」などといった声も多く聞きます。

社員数が少なく、若手社員の割合が高い会社では、炊飯器を置いてごはんを自由に食べられるようにしたところ、菓子パンやカップラーメンで昼食を済ますことが多かった社員が、おかずを購入するようになり、食事のバランスがよくなったというケースもあります。こうした話を聞くと、会社の規模に関わらず、社員の食環境を整えるためにできることは色々ある、と思えますよね。

しかし、このように環境を変えられないのであれば、社員向け健康セミナーを開催するのも有効です。最初は参加率もそう多くは期待できないかもしれませんし、社員の健康に即リーチするような即効性があるわけでもありません。ただ、「会社に外部講師がきてこういう話をきいた」と社外の人に話したとき「うちの会社ではそんなことしたことがない!良い会社だね」と言われてうれしかった…というような、外からの評価が思いがけず社員に効く、というケースもあります。実際、こうしたセミナーを開催することは、会社から大事にされている、という実感を伴うものでもあるでしょう。そして、どの施策も、定点観測をしたり、部署ごとにフィードバックをもらったり、振り返りをすることも重要です。


次回は、ストレスに強くなる食事についてお話したいと思います。


↓笠井氏の連載はこちらから
【連載vol.1】今、働き方改革で注目したいのは”働き方”に直結する社員の“食環境”
【連載vol.2】その食環境、社員の疲労度をあげていませんか?
【連載vol.3】企業における食環境改善の実例とメリット
【連載vol.4】ストレスに強くなる食事とは


笠井 奈津子(かさい なつこ)


栄養士、フードアナリスト、生活リズムアドバイザー、健康リズムカウンセラー

東京都生まれ

聖心女子大学文学部哲学科卒業後に香川栄養専門学校(現 香川調理製菓専門学校)を経て栄養士に。
都内心療内科クリニック併設の研究所で食事カウンセリングに携わる。
フリーランス転身後、“メタボとうつ”“心と食”などをテーマに講演を行う。企業研修では、数百人単位の参加者でも事前に食事記録をチェックし、労働環境、食環境にも配慮。コンビニでの選択法など、机上の空論にならないアドバイスを大事にしている。

 
▼著書
『10年後も見た目が変わらない食べ方のルール』(PHP新書)『甘い物は脳に悪い』(幻冬舎)
『子どもの「できない」を「できる」にかえる子育て食事セラピー』(河出書房)

など9冊、累計発行部数20万部。


人気記事

1

嘱託産業医への報酬はどれくらい?相場や決まりなど。

「産業医の採用コストっていくらが適正なの?」と不安に思う方は多いのではないでしょうか。 すでに産業医がいる企業でも、雇用形態を変えることでコストを抑えることもできるかもしれません。 本記事では、産業医の報酬相場や決まりなどをご紹介します。

2

産業医との契約形態にはどのようなものがあるか

産業医との契約にはいろいろなケースがあるのをご存じでしょうか? 大きく分けると、産業医と企業が直接契約するケースと、間に企業をはさんで間接契約するケースの2つの方法があります。 本記事では、多くの企業が採用する直接契約について解説します。

3

産業医 尾林誉史先生×企業の語り場 vol.1

企業の産業保健活動を推進するために、企業と産業医の間ではどのような連携が必要なのでしょうか。 今回は、カヤックの労務担当・植杉佳奈恵氏、カヤックの産業医を務める尾林誉史先生に、対談形式で実際に行っている産業保健の取り組みについて伺いました。

4

今、働き方改革で注目したいのは”働き方”に直結する社員の“食環境”

働き方改革の流れの中で、いま改めて考えたい社員の“食環境”。取り組みをされている企業はまだ少ないのではないでしょうか? 今回は「食から始める働き方改革」というテーマで、人気栄養士 笠井奈津子氏にお話を伺いました。

5

プレゼンティズム、アブセンティズムから考える健康経営

人事労務の仕事を通して、「プレゼンティズム」「アブセンティズム」というキーワードに触れる機会は増えていませんか。それは、これらのワードが従業員の健康に対する投資対効果(ROI)を測るための指標として注目を集めているからです。 本記事では「プレゼンティズム」「アブセンティズム」という言葉の意味をはじめ、改善に取り組むメリットをご紹介します。もしこの2つを理解し、従業員のアクションまで落とし込めれば、自社の生産性向上や経営陣への健康経営に向けたアピールにもきっと役立てられるはずです。

関連記事

今、働き方改革で注目したいのは”働き方”に直結する社員の“食環境”【連載vol.1】

生産性向上

働き方改革の流れの中で、いま改めて考えたい社員の“食環境”。取り組みをされている企業はまだ少ないのではないでしょうか? 今回は「食から始める働き方改革」というテーマで、人気栄養士 笠井奈津子氏にお話を伺いました。

その食環境、社員の疲労度をあげていませんか?【連載vol.2】

生産性向上

「しっかり寝ているのに疲れが抜けない…」その原因は、食事にあるかもしれません。食事は社員の自己責任と考える会社も多いですが、実は会社側がサポートできる部分もあります。本記事では、健康経営の一貫で社員の食にどう向き合っていくべきかお話します。

ストレスに強くなる食事とは【連載vol.4】

生産性向上

社員のストレスケアのひとつとして「食生活の改善」は非常に重要な要素です。様々なストレスと共存しながらも高いパフォーマンスを出し続ける組織になるために、「食」という観点からどのようなアプローチがとれるのでしょうか?

低気圧で体調不良になりがちな梅雨 職場環境を改善して労働効率アップ

従業員の病気

暑かったり寒かったり、あるいはジメジメした天候が続く梅雨時は体調を崩しやすいものです。 イライラしたりやる気が出なかったりして仕事の能率も下がりがち。 こうした症状を指す「気象病」という言葉も定着してきました。 その原因の多くは自律神経の乱れにあります。 規則正しい生活やバランスのとれた食事、適度な運動を心がけることが大切ですが、職場環境を見直すだけで症状を和らげることも可能です。 ポイントは温度と湿度のコントロール。 職場の温度と湿度に目配りして、生産性アップにつなげましょう。

担当者必見!働き方改革関連法における産業医・産業保健の変更点

法律

2019年4月から“産業医・産業保健機能”に関する内容が整備・強化されることになりました。 「関連法改正の前後で産業保健の取り組みにどのような変更があるのか?」など、ご担当者が抱きやすい疑問や懸念を解消していきます。

お問い合わせ

産業医の採用ついて、健康経営の取り組みについて、お困りではありませんか?
お見積り、ご相談は完全無料ですので、お気軽にお問い合わせください