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新型コロナウイルスで企業は何を意識すべき?社労士が徹底解説!

新型コロナウイルスが猛威を振るい、遂に緊急事態宣言が出されました。対象地域は全国に拡大されます。事態は次々と変化・深刻化しています。収束には長期間かかるでしょう。

それぞれの会社で経営者、管理者、従業員等がどのように取り組むべきか、健康経営の真価が問われています。
この未曾有の危機的状況の中で、自社や従業員を守るために人事労務担当者は何を意識し取り組まねばならないのでしょうか?

社会保険労務士で健康経営エキスパートアドバイザーとしても活躍される玉上 信明先生に、新型コロナウイルスに対する人事労務担当者の心構えや取り組むべき内容を伺いました。

目次[非表示]

  1. 1.新型コロナウイルスで企業の健康経営の真価が問われている
  2. 2.企業がおさえておくべき新型コロナウイルスに対する“5つの心構え"
    1. 2.1.ウイルスは自分では移動しない
    2. 2.2.従業員等の命と健康こそが第一
    3. 2.3.個別の事情に応じた柔軟な対応が求められる
    4. 2.4.従業員等の感染症予防対策リテラシーの向上
    5. 2.5.最後に私たちを守るのは免疫力
  3. 3.あなたの職場に潜む3密を把握し、対処しましょう
    1. 3.1.職場内で注意すべきポイント
      1. 3.1.1.事務室の環境
      2. 3.1.2.会議室等の点検・会議運営の見直し
      3. 3.1.3.トイレ、給湯室、更衣室、バックヤード、エレベーター、廊下など
      4. 3.1.4.喫煙室の再検討
    2. 3.2.通勤で注意すべきポイント
      1. 3.2.1.時差通勤は柔軟に対応すべき
      2. 3.2.2.遅刻・早退・中抜けなども柔軟に
      3. 3.2.3.フレックスタイムの導入は慎重に
    3. 3.3.ランチタイムの外出で注意すべきポイント
    4. 3.4.マスク・消毒用アルコールなど
    5. 3.5.接待、歓送迎会、会食などの自粛の徹底
    6. 3.6.出張は避ける
    7. 3.7.小売店飲食店など顧客と直接向き合う店舗などの注意点
      1. 3.7.1.東京都の緊急事態措置による「適切な感染防止対策」 
      2. 3.7.2.日本フードサービス協会「外食事業者の新型コロナウイルス感染症対策チェックリスト 」
  4. 4.テレワーク実施は企業の3密を避ける切り札
    1. 4.1.これから導入を検討される方はテレワークサポートサイトの活用
    2. 4.2.就業規則に定めがなくてもテレワーク実施は可能
      1. 4.2.1.従業員の意思に反するテレワークは、慎重な判断が必要
      2. 4.2.2.労務管理上の留意点
  5. 5.会社や事業場が休業になった場合に注意するポイント
    1. 5.1.従業員に休業を求める場合の対応について
      1. 5.1.1.休業手当支給義務(平均賃金の100分の60以上)を守ること
      2. 5.1.2.休業手当支払い義務が免除される場合も。ただし…要件は限られている。
      3. 5.1.3.会社の故意過失による休業なら賃金全額の支払い義務
    2. 5.2.従業員に時期指定で有休を取得させることは原則出来ない
    3. 5.3.感染者を就業禁止にする場合は休業手当を支払う必要はない
    4. 5.4.予防的な休業は従業員に有休を利用してもらう
    5. 5.5.公的な支援(雇用調整助成金など)を活用する
      1. 5.5.1.雇用調整助成金
      2. 5.5.2.新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金・支援金
  6. 6.解雇・雇いどめ・内定取り消し時に注意するポイント
    1. 6.1.解雇(会社からのクビ)する理由として認められるもの
      1. 6.1.1.従業員側の理由として認められるもの
      2. 6.1.2.会社側の理由として認められるもの
    2. 6.2.雇止めは会社の一方的な理由では行えない
    3. 6.3.内定取消しが出来るのは客観的に合理的な理由がある場合のみ
  7. 7.まとめ


新型コロナウイルスで企業の健康経営の真価が問われている

健康経営は、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する経営手法です。
今問われているのは従業員等、そのご家族、また、お客様や取引先も含めて命と健康を守る取組みです。

ここでは、それぞれの職場における健康経営の視点で取り組むべきヒントをまとめました。

本稿が新型コロナウイルスに立ち向かう皆様方のために、少しでもお役に立てば幸いです。


企業がおさえておくべき新型コロナウイルスに対する“5つの心構え"

はじめに企業の行動指針の整理として、新型コロナウイルスに関する基本的な心構えを確認します。

ウイルスは自分では移動しない

ウイルスは自分では移動しません。空中を漂って遠くまで運ばれることもありません。

人に運ばれて移動し「3つの密」(以下「3密」)などの場で飛沫感染や接触感染を通じて感染が拡大します。
従って、対策の要点は二つです。

①人の移動を可能な限り避けること。
②3密などの場を極力避けること、そのような場を縮減、できれば無くすこと。


従業員等の命と健康こそが第一

健康経営の根幹です。例えば、就業規則に定めがないからテレワークができない、などと頑なに考えるのはおやめになった方が良いでしょう。

就業規則などのルールは、平時に会社業務を円滑に実施するためのものです。今は緊急事態です。緊急時に命と健康を守るためのやむを得ない対応なら、ためらわずに取り組むべきでしょう。会社・従業員等が納得したうえで命と健康を守るために行動しているなら、クレームトラブルが生ずるはずもありません。リスクマネジメント、クライシスマネジメント、危機管理という視点で、経営的な判断が求められるでしょう。


個別の事情に応じた柔軟な対応が求められる

政府や都道府県等からは緊急事態宣言を受けて細かな要請や指示が出されてきています。

しかし、それぞれの職場、それぞれの従業員等により事情は様々です。政府等の要請や指示を待つまでもなく、自らの職場にふさわしい行動を果断に行いましょう。


従業員等の感染症予防対策リテラシーの向上

感染症予防対策は健康経営の重要な取組み事項の一つです。

とりわけ新型コロナウイルスに関しては、知識啓発等のリテラシー向上が必須です。最新の正確な情報を従業員等に周知してください。間違ってもデマ情報の流布に惑わされないように注意しましょう。


最後に私たちを守るのは免疫力

ワクチンも治療法もない中、唯一の頼りは私たち一人一人の免疫力です。食事、睡眠、運動などに心がけ、無用なストレス防止に気をつけましょう。

過重労働やハラスメントなどによるストレスは、免疫力を確実に低下させますので、
万全の対応が必要です。

あなたの職場に潜む3密を把握し、対処しましょう

皆さんの職場で、何が、どこが3つの「密」 に該当するかを話し合い、それに応じた対応に取り組みましょう。

以下に職場内に潜む3密として考えられるポイントをまとめました。あくまで代表的な事例ですので、ご自身の職場の環境に合わせて考えてみてください。


新型コロナウイルス感染症に備えて ~一人ひとりができる対策を知っておこう~

出典:首相官邸「新型コロナウイルス感染症に備えて~一人ひとりができる対策を知っておこう。~」5. 感染症対策へのご協力をお願いします(チラシ)

職場内で注意すべきポイント

事務室の環境

事務室や執務スペースは多くの企業で3密に該当しやすい場所になっています。
3密を避けるために机や椅子の配置を手直しすることが有効です。
例えば、向かい合った配置をやめて、横に並ぶ、格子状にする、などです。

手軽に始められる対策として、鳥取県庁では、職員の間に段ボールの仕切りをおいて感染予防に努めておられます。

また、外の新鮮な空気を取り入れるなど、換気にも注意しましょう。


【参考】

・日刊スポーツ「感染者0鳥取、県庁で3密減らす「ダンボール窓口」」


会議室等の点検・会議運営の見直し

会議は3密の最たるものです。不要不急の会議は極力減らすか、時間を短縮するといった対策をとってみてください。また、同じ場所に集まらなくとも実施出来そうな会議についてはオンライン会議の活用も検討しましょう。


トイレ、給湯室、更衣室、バックヤード、エレベーター、廊下など

トイレや給湯室などの場所は気持ちが緩んでついついおしゃべりがはずんでしまう場所かもしれません。しかし、それが感染拡大につながってしまいますので、お互いに注意するように心掛けましょう。


喫煙室の再検討

3密そのものです。廃止を含めてこの機会にもう一度検討されてはいかがでしょうか。

受動喫煙の防止は、健康経営優良法人認定基準の必須項目です。ある意味では受動喫煙防止対策の絶好の機会かもしれません。


【参考】

・厚生労働省:「受動喫煙対策」ポータルサイト

・東京都:東京都受動喫煙防止条例ポータルサイト

【関連記事】

2020年度から義務付けられる受動喫煙防止対策。企業の法的責任とは?


通勤で注意すべきポイント

ラッシュアワーの通勤も3密の最たるものです。

時差通勤やフレックスタイム等、打てる手はすぐ打ちましょう。なお通勤そのものをなくす「テレワーク」については後述します。


時差通勤は柔軟に対応すべき

時差通勤については取り組みを一度検討してみましょう。厚生労働省のQ&A でも「労働者及び使用者は、その合意により、始業、終業の時刻を変更することができますので、時差通勤の内容について、労使で十分な協議をしていただきたいと思います。」とされており、時差通勤が推奨されています。(参考:厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け) 2 感染防止に向けた柔軟な働き方(テレワーク、時差通勤)問2」)

たとえ1人の従業員でも、ご自身やご家族の事情で、感染予防のために時差通勤を希望されるなら、会社として積極的に対応すべきでしょう。


遅刻・早退・中抜けなども柔軟に

従業員やご家族の感染の懸念や検査などのためなら、遅刻、早退、勤務時間中の中抜けなども、会社として柔軟に認めていく必要があります。「時間年休」といったことにとらわれず、現場の管理職や働く仲間の間で、「お互い様」の気持ちで柔軟に対応されてはいかがでしょうか。私の前職の銀行では、通院などで遅刻・早退・中抜けをしても、職場で特に問題にしないという風土がありました。このような支え合いの風土が今のような緊急時にこそ必要だと思います。


フレックスタイムの導入は慎重に

フレックスタイムは、従業員が自分で始業・終業時刻を決めることができる制度です。3か月以内の一定期間(清算期間)の総労働時間を定め、その範囲内で各日の始業・終業の時刻を従業員自ら決める仕組みです。

但し、清算期間をはじめ技術的な問題が様々あり、導入には就業規則と労使協定の定めが必要です。実務的には、まず時差通勤などで対応し、労使で話し合ってフレックスタイム導入も検討していくのが現実的でしょう。

【参考】

・厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き


ランチタイムの外出で注意すべきポイント

お昼ご飯の外出はランチタイムラッシュを避けましょう。

例えば、食事を11時半からと12時半からの2回に分け交代で行くようにすれば、飲食店の混雑も避けることができるので一石二鳥でしょう。


マスク・消毒用アルコールなど

会社が感染予防のため従業員にマスク着用を義務付けても、従業員の生命と健康を守るための業務上必要な措置であり、問題になることはないでしょう。

また、会社に消毒用アルコールの備え付けなども置いておくと、より高い効果が期待できるため、入手出来るようでしたら必ず設置するようにしましょう。

全国的なマスク不足がなかなか解消されませんが、マスクの代わりにハンカチなどを利用した「代用マスク」というものもあります。ハンカチ、百均のコーヒーフィルター、ティッシュペーパー、キッチンペーパーなどでも簡単につくれます。次のブログも参考に、お試しになってはいかがでしょう。

【参考】

・銅鑼猫ブログ「代用マスクの作り方(お役立ち情報)


接待、歓送迎会、会食などの自粛の徹底

接待、歓送迎会、儀礼的な会食などは自粛を徹底しましょう。

なお、アルコールを摂取すると聴覚の働きが鈍り、自然に声が大きくなります。飛沫感染のリスクも高まります。接待等の場にはアルコールはつきものです。この点からも接待等の自粛は理にかなっています。

4月7日に緊急事態宣言が7都道府県に出されました(東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡)。さらに16日に宣言の対象地域が全国に拡大されました。

東京都では、キャバレー、ナイトクラブ、バー、カラオケボックスなどの休業要請、飲食店の営業時間短縮などの協力要請が行われています。

各道府県企業も、東京都等の取り扱いを参考に、接待を控えるほか、社内の仲間の会食等の類もできる限り差し控えるべきでしょう。


出張は避ける

出張は遠距離の移動です。

出張すれば会議もあるでしょうし、「遠くから来たのだから」と接待のお誘いもあるかもしれません。不要不急の出張は3密に遭遇する可能性を高めるばかりか、感染拡大の要因にも繋がりますので、極力なくしオンライン会議で済ませるようにしてください。

製造現場や建設現場などでも、WEB カメラの活用などで遠隔地の本社から出張なしで指示をすることも検討すべきです。私は東京テレワーク推進センターで、建設現場をドローンで撮影して本社で指示を出すという実演のデモを見せていただいた事があります。


小売店飲食店など顧客と直接向き合う店舗などの注意点

感染症予防対策は顧客取引先を守る必須のものです。お客様と直接向き合う店舗営業などでは特に注意が必要です。


東京都の緊急事態措置による「適切な感染防止対策」 

緊急事態宣言を受けて、東京都で一定の施設について休止要請や協力依頼を行っています。

社会生活を維持する上で必要な施設(医療、生活必需物資や食事提供施設等)についても、「適切な感染防止対策の協力要請」が行われています。


東京都以外でも、参考にされるべきでしょう。

適切な感染防止対策

出典:東京都労災ホームページ「新型コロナウイルス感染拡大防止のための東京都における緊急事態措置等

更に詳しい内容は「東京都緊急事態措置に関するQ&A(事業者の方へ)」を参考にしてください。


日本フードサービス協会「外食事業者の新型コロナウイルス感染症対策チェックリスト 」

同協会が外食産業向けに取り纏められたものですが、幅広く多くの業種の方に参考になる内容が多いと思います。全体で26項目あります。一度チェックしてみてください。 一例として次の通りです(要約して引用)。

(例1)店舗のドアノブ、テーブル、イス、等の設備の消毒、卓上の調味料・ポット、セルフサービスのトング等について、撤去が難しい場合は、こまめな消毒や用具の交換を行うなど、店舗内での接触感染防止を図る。

(例2)緊急時にも関係機関や取引業者と連絡できるよう、固定電話番号、携帯電話番号など複数の連絡先を確保し明記しておく。

(例3)従業員が過度な心配や恐怖心を抱かないよう、また風評や誤解などに惑わされないよう、現状を的確に従業員に伝える方法を考えておく(従業員へのリスク・コミュニケーション)。

(例4)物流の支障などが生じた場合に備え、取引業者や物流ルート(サプライ・チェーン)の変更の可能性やコスト負担等、段階に応じた事業活動の影響について確認する。

参考:日本フードサービス協会「感染拡大期における外食産業のための新型コロナウイルス感染症対策 (R2.3.2)」(チェックリストはこの8頁以下です)


テレワーク実施は企業の3密を避ける切り札

テレワークは本拠地のオフィスから離れた場所で、ICT(「Information and Communication Technology(情報通信技術)」の略で、通信技術を活用したコミュニケーションを指します)を使って仕事をすることです。

「在宅勤務」だけでなく、移動中や出先での「モバイル勤務」、 本拠地以外の施設で働く「サテライトオフィス勤務」があります。
「移動を避ける」「通勤時の3密を避ける」、この切り札として強く推奨されています。

4月7日に行われた緊急事態宣言で叫ばれていた「接触機会の8割低減」は、テレワークを積極活用しない限り難しいでしょう。

各企業の必須の目標として真剣に取り組むことをお勧めします。


これから導入を検討される方はテレワークサポートサイトの活用

これからテレワークの導入を検討されている方に、厚生労働省などから提供されている情報の中で、おすすめのサイトを下記にまとめました。無料のコンサルティングなども実施されています。ぜひご活用ください。


【参考】

厚生労働省「テレワーク総合ポータルサイト」

テレワークの基本的な情報、資料紹介、実施事例、無料コンサルティングなどがまとめられています。サテライトオフィスも紹介されています。

次のガイドラインもご活用ください。

・厚生労働省「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン


一般社団法人日本テレワーク協会(JTA)

新型コロナウイルス感染症対策:テレワーク緊急導入支援プログラムのご紹介

テレワークを緊急導入される企業等向けに、JTA会員企業・団体によるテレワーク緊急導入支援プログラムが紹介されています。


株式会社テレワークマネジメント

同社代表田澤由利様が日経ビジネスに投稿された次の記事はぜひお読みください。

「新型コロナウイルス対策に「テレワークの正論」は通じない!」


また、同社で4月10日に実施したテレワーク・ミニセミナー【緊急LIVEセミナー】録画公開|緊急事態宣言下における「今できる、今すべき、テレワーク」が公開されています。

内容の一部をご紹介します。

<セミナー内容の一部を抜粋>

・何はともあれ、WEB 会議を始めましょう。

・着席退席の管理システムで職場と同様の緊張感。

・味の素の事例:工場勤務でもテレワーク可能!

・ZOOM システムを用いて『仮設クラウドオフィス」はすぐできる


東京テレワーク推進センター

東京都と国が設立したワンストップ相談サービスセンターです。実際のテレワーク体験も可能です。飯田橋駅の近くです。近郊の方は機会があればぜひ訪問してみてください。


就業規則に定めがなくてもテレワーク実施は可能

従業員から希望があれば個別労働契約の改定で実施可能

個々の従業員から、切迫した事情で、すぐにテレワークをしたい、といった希望が寄せられることもあるでしょう。完全な在宅でなくとも一日の一定時間とか、週一度など限定的なテレワークなら、まだテレワークを導入したことのない企業様にとってもハードルは高くないかもしれません。実際には我国ではこのような限定的なテレワークがむしろ一般的といわれています。

仮に就業規則に定めがなくても、法的には「労使合意による個別労働契約の改定」として対応は可能です。就業規則は個別労働契約の最低限の共通事項を示したものです。就業規則よりも労働者の不利にならない限り、個別労働契約で別の内容を定めても問題にはなりません。従業員等とご家族の命と健康を守る対応です。経営者、人事労務担当者、管理者は思い切って決断すべきです。就業規則の改定などは後からしっかり取組めば良いと思います。


従業員の意思に反するテレワークは、慎重な判断が必要

但し逆に、会社が従業員の意思に反してテレワークを命ずることができるかどうかは、慎重に扱うべきです「家庭では仕事ができない」など個別の事情を持つ方もおられるでしょうし、私生活の場に仕事を持ち込むことへの反発が生まれるケースが多々あるためです。

厚生労働省の「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」では、「個々の労働者がテレワークの対象となり得る場合であっても、実際にテレワークを行うか否かは本人の意思によることとすべきである。」と明記されています。

(ガイドライン3.(1))

実務上は、従業員の事情をしっかり聞き取って協議することをお勧めします。在宅でなくてもモバイルやサテライトオフィスの活用なども選択肢の一つとして検討してください。


労務管理上の留意点

テレワークは自宅など離れた場所での勤務であるというだけであり、労働時間の適正な把握、過重労働の防止、労災防止など、様々な考慮は、職場での勤務の場合と変わりません。 例えば、在宅勤務中にトイレから帰ってきて椅子に座ろうとして転んでケガをして、労災が認められた事例があります 。


次の資料が参考になります。ぜひご活用ください。

【参考】

・総務省主催セミナー資料「テレワーク実施時の労務管理上の留意点

(自宅環境のチェック、例えば、照明や湿度、作業場所周囲のチェック、一つの作業を一時間以内になど、細かな注意が示されています。)

テレワークチェックポイント


会社や事業場が休業になった場合に注意するポイント

客足が途絶えた、あるいは緊急事態宣言で休業要請があった、等の事情で事業所や店舗を休業したり 、従業員等に休業を求めるときの注意を取りまとめました。


従業員に休業を求める場合の対応について

休業手当支給義務(平均賃金の100分の60以上)を守ること

従業員を休業させる場合、原則として休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払う義務があります(労働基準法第26条)。労働者の最低生活保障のため、罰則つきで定められた規定です(労働基準法第120条)。


もし違反してしまった場合は30万円以下の罰金が発生しますので注意してください。


不可抗力でない限り会社は休業手当の支払い義務を免れないと考えられています。 不可抗力については次項で解説しますので、そちらもご参考ください。


休業手当支払い義務が免除される場合も。ただし…要件は限られている。

先述したように休業手当の支払い義務については、「不可抗力」と見なされない限り、会社は支払い義務を免れないと考えられています。

「不可抗力」は「事業の外部より発生した」というだけでなく「経営者として最大の注意を尽くしても避けられなかった」という場合に限られます。

都道府県からの休業要請が「不可抗力」に当たるかどうか専門家の意見は分かれています。「当然不可抗力になるはずだ。」などと即断しないほうが無難です。

なお、テレワークで対応可能かどうかも十分検討せずに従業員に休業を命じた場合は、不可抗力とは言えず、休業手当の支払が必要となりうる、とされています。(参考:厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け) 4 労働者を休ませる場合の措置(休業手当、特別休暇など)問1」


前述テレワークについての真摯な検討が、この意味からも必須です。


会社の故意過失による休業なら賃金全額の支払い義務

さらに、休業が会社の故意・過失による場合には賃金全額の支払い義務が生じます(民法536条2項)。安易な休業は、会社にとって大きなリスクを生むと考えておいた方が良いでしょう。


従業員に時期指定で有休を取得させることは原則出来ない

休業するにあたり、従業員に年次有給休暇をとってもらうことを考えている会社も多いと思います。

しかし、有休は、従業員の権利であり、原則として従業員の請求する時季に与えなければなりません。会社が従業員に対して一方的に有休を取得させることはできません。

(参考:厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け) 4 労働者を休ませる場合の措置(休業手当、特別休暇など)問9」


感染者を就業禁止にする場合は休業手当を支払う必要はない

従業員が感染したために都道府県知事の就業制限により休業する場合は、「使用者の責に帰すべき事由による休業」ではありません。


会社として休業手当を支払う必要はありません。
要件を満たしておれば、健康保険から傷病手当金が支給されます。


予防的な休業は従業員に有休を利用してもらう

会社として感染予防のために従業員を休ませる場合は、休業手当の支給が必要です。


従業員が自分の判断で休む場合には、休業手当を支給する必要はありません。有休を利用してもらうのが現実的でしょう。


(参考:厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け) 4 労働者を休ませる場合の措置(休業手当、特別休暇など)問3」「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け) 4 労働者を休ませる場合の措置(休業手当、特別休暇など)問4」


公的な支援(雇用調整助成金など)を活用する

新型コロナウイルス対応で様々な助成金が設けられ、また、日々内容が更新されています。

本稿執筆時(4月16日)現在の主なものをご紹介します。
いずれも従業員の正規・非正規を問わず助成の対象になります。

雇用調整助成金

新型コロナウイルス感染症により影響を受ける会社が、従業員の雇用維持のために一時的に休んでもらう場合や、教育訓練や出向などした場合に、休業手当、賃金等の一部を助成するものです。会社から従業員等への休業補償の相当の部分が助成されます 。


新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金・支援金

小学校等が休校になったために、従業員がお子さんの世話のために休まざるを得なくなることがあります。会社が通常の有休とは別に、従業員に特別の有休を付与した場合に、休暇中の賃金全額が助成されます(上限額あり)。6月末の有休までが対象となっています。


上記の申請手続きは大変複雑です。社会保険労務士など専門士業者やコンサルタントのサポートを受ける事をお勧めします。


【参考】

・厚生労働省「雇用調整助成金 ◇新型コロナウイルス感染症について

・厚生労働省「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金・支援金の延長について


解雇・雇いどめ・内定取り消し時に注意するポイント

新型コロナウイルスを理由に解雇・雇いどめ・内定取り消し等の動きが問題になっています。

これらは全て、会社から従業員をクビにするに等しいものです。


我国の労働法制では、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められない場合には、解雇・雇止め・内定取り消しはいずれも認められません。


「客足が途絶えた」「都道府県から休業要請があった。」というだけで、簡単に社員をクビにできるとは考えない方が良いでしょう。


解雇(会社からのクビ)する理由として認められるもの

認められるのは次のような場合だけです。そうでなければ「解雇権濫用」として無効とされかねません(労働契約法第16 条)。


従業員側の理由として認められるもの

「労働能力の低下」「職務不適格」「企業秩序違反」など


会社側の理由として認められるもの

「整理解雇」いわゆるリストラです。次の4要件を満たす必要があります。


【整理解雇の4要件】

1.解雇の必要性(解雇しなければ会社が存続できない。)

2.解雇回避努力(解雇を避けるために最善の努力をした。)

3.人選の合理性(合理的な人選基準と公正な適用)

4.手続きの妥当性(労働組合、労働者との誠実な交渉等)


雇止めは会社の一方的な理由では行えない

有期労働契約について契約更新を行わないことです。従業員が契約更新を申し入れしたのに会社が拒否した場合「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」は、従前の契約をそのまま承諾したと扱われ、契約が更新されます(労働契約法第19条)。


内定取消しが出来るのは客観的に合理的な理由がある場合のみ

内定により労働契約は締結されています。内定取り消しは会社による労働契約解約すなわち解雇(クビ)なのです。

内定取り消しができるのは客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認できる場合に限られます。


まとめ

新型コロナウイルスはまさに未曾有の危機です。

しかし、このようなときこそ従業員の命と健康を第一に、できることを速やかに徹底的に取り組んでください。それらの対策の中から、日常の業務の合理化・効率化、テレワークをはじめとする新しい取組みへの果敢なチャレンジが生まれます。


従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することが、従業員の活力向上、生産性の向上をもたらし、業績の向上、企業イメージの向上につながっていきます 。

今こそ、健康経営の真価が試されています。

玉上 信明(たまがみ・のぶあき)
玉上 信明(たまがみ・のぶあき)

社会保険労務士玉上事務所(https://srdoraneko.amebaownd.com/) 社会保険労務士/健康経営エキスパートアドバイザー/ 日本公認不正検査士協会アソシエイト会員(https://www.acfe.jp/) 日本紙芝居型講師協会会員(https://todotakehisa.themedia.jp/) 三井住友信託銀行株式会社入社後、年金信託・法務・コンプライアンス部門などを担当。 定年退職後、2017年1月に社会保険労務士玉上事務所を開業し人事労務管理コンサルティングなどをおこなう。セミナー講演やメディアへの記事掲載、ブログも執筆中。 ブログ:虎猫銅鑼猫「toranekodoranekoのブログ」 最近の講演:2019年6月公益社団法人全国産業資源循環連合会第9回定時総会

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2020年4月1日より施行される健康増進法の改正によって、従業員の望まない受動喫煙を防止することが企業責任のひとつに加わりました。法律改正によって、人事労務担当者は受動喫煙防止や社内のたばこ問題解決に向け、より一層の対策が求められることになります。 本記事では受動喫煙対策関連の法案が設立された背景をはじめ、企業としての法的責任や対策についてご紹介します。厚生労働省が紹介する各種支援制度、他社事例等もご説明しますので、受動喫煙問題を検討する担当者にとってはどれも見逃せない内容ばかりです。

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嘱託産業医への報酬はどれくらい?相場や決まりなど。

「産業医の採用コストっていくらが適正なの?」と不安に思う方は多いのではないでしょうか。 すでに産業医がいる企業でも、雇用形態を変えることでコストを抑えることもできるかもしれません。 本記事では、産業医の報酬相場や決まりなどをご紹介します。

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